ベルナルド・ベルトルッチの「暗殺のオペラ」を観た。初見だったのだが、始まってすぐにその映像美にアテられてしまった。その後も終始、端から端まで、なんという圧倒的な美しさ。どこを切り取っても絵になるとはまさにこういうことだと思った。
自分が曲がりなりにもイラストレーターという職業をやっているからそう思うのかもしれないが、絵を描く者なら皆、この映画を観ると食指が動き、どこかしらのシーンを描きたくなるのではないだろうか。それくらい完璧な構図が、美しい色彩が、緑が光が、次から次へと出てくる。なので、この連載でとりあげる映画は毎回自由に決めさせてもらっているのだが、迷うことなく「暗殺のオペラ」を選び、次の題材に決めていた。
描きどころに溢れたこの映画、さあどこを描こうかなあ、と揚々と考えていると、ふと、昔イラストレーターの先輩に言われた言葉を思い出した。「すでに入念にデザインされた美しいもの、たとえばウイスキーのいいボトルとか、映画のワンシーンとか、それをそのまんま絵に描いて、ある程度かっこよくなるのは当たり前なんですよ。」
この言葉を思い出した途端、このすでに美しい「暗殺のオペラ」のどこを描くかということにどんどん迷いが生じてきてしまい、結局決められないままに時間が経っていった…。
自分が曲がりなりにもイラストレーターという職業をやっているからそう思うのかもしれないが、絵を描く者なら皆、この映画を観ると食指が動き、どこかしらのシーンを描きたくなるのではないだろうか。それくらい完璧な構図が、美しい色彩が、緑が光が、次から次へと出てくる。なので、この連載でとりあげる映画は毎回自由に決めさせてもらっているのだが、迷うことなく「暗殺のオペラ」を選び、次の題材に決めていた。
描きどころに溢れたこの映画、さあどこを描こうかなあ、と揚々と考えていると、ふと、昔イラストレーターの先輩に言われた言葉を思い出した。「すでに入念にデザインされた美しいもの、たとえばウイスキーのいいボトルとか、映画のワンシーンとか、それをそのまんま絵に描いて、ある程度かっこよくなるのは当たり前なんですよ。」
この言葉を思い出した途端、このすでに美しい「暗殺のオペラ」のどこを描くかということにどんどん迷いが生じてきてしまい、結局決められないままに時間が経っていった…。
一旦話題を変えて、この映画のストーリーは、主人公が北イタリアの「タラ」という小さな田舎町を訪れ、亡き父のかつての愛人に頼まれて父を暗殺した犯人をさがす、というものだ。アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「伝奇集」に収められた「裏切り者と英雄のテーマ」という短編が原作となっている。
主人公をタラの町に呼んだ父の生前の愛人ドライファは、アリダ・ヴァリが演じている。私はそれまでアリダ・ヴァリは「第三の男」や「さすらい」といった20代〜30代の頃の役しかみておらず、きつめのきれいな顔をしたセミロングのお姉さん、ちょっと苦労人気質、スカート長め、というイメージだった。しかしこの映画ではグレイの髪をショートに刈り上げ、瀟洒なスーツやワンピースを着てスリムな足を出し、田舎の豪邸に住むちょっと謎めいたマダムという役どころをとてもかっこよく美しく演じており、それまでの私のアリダ・ヴァリイメージが大きく覆された。初登場シーンの、美しすぎる庭を歩く姿も見どころだ。
その豪邸や、冒頭での街中、駅や劇場のシーンでは、人物の動きに合わせて部屋と部屋や柱と柱をまたいでカメラを水平に横スクロールで移動させる撮影手法(「コックと泥棒、その妻と愛人」や「トニー滝谷」を観たことある方は、あのカメラワークです。観たことない方は、これらもおもしろいのでぜひ)が使われていて、これがまた良い。
そして、そういったカメラワークや画面の全体的な構図だけでなく、各所にちりばめられた細かい小物の演出も印象的で心を掴まれる。ドライファの家で食べるスイカ、ピンクやオレンジの大輪のダリアの花、ホテルでの少年とその子が連れているウサギなど、こういったものひとつひとつにもきっとベルトルッチの意図があり、それらはとても功を奏して、この映画独特の世界観を形作る要素の一部となっている。
主人公をタラの町に呼んだ父の生前の愛人ドライファは、アリダ・ヴァリが演じている。私はそれまでアリダ・ヴァリは「第三の男」や「さすらい」といった20代〜30代の頃の役しかみておらず、きつめのきれいな顔をしたセミロングのお姉さん、ちょっと苦労人気質、スカート長め、というイメージだった。しかしこの映画ではグレイの髪をショートに刈り上げ、瀟洒なスーツやワンピースを着てスリムな足を出し、田舎の豪邸に住むちょっと謎めいたマダムという役どころをとてもかっこよく美しく演じており、それまでの私のアリダ・ヴァリイメージが大きく覆された。初登場シーンの、美しすぎる庭を歩く姿も見どころだ。
その豪邸や、冒頭での街中、駅や劇場のシーンでは、人物の動きに合わせて部屋と部屋や柱と柱をまたいでカメラを水平に横スクロールで移動させる撮影手法(「コックと泥棒、その妻と愛人」や「トニー滝谷」を観たことある方は、あのカメラワークです。観たことない方は、これらもおもしろいのでぜひ)が使われていて、これがまた良い。
そして、そういったカメラワークや画面の全体的な構図だけでなく、各所にちりばめられた細かい小物の演出も印象的で心を掴まれる。ドライファの家で食べるスイカ、ピンクやオレンジの大輪のダリアの花、ホテルでの少年とその子が連れているウサギなど、こういったものひとつひとつにもきっとベルトルッチの意図があり、それらはとても功を奏して、この映画独特の世界観を形作る要素の一部となっている。
さて話を戻して、結局イラストはワンシーンを切り取ったそのまんまの構図ではなく、すごく好きだった場面のものを抜き出したり、自分なりのアレンジを加えて描くことにした。決して「そのまんま絵に描いて、ある程度かっこよくなるのは当たり前」とわざわざ書いてハードルを上げてしまったことへの回避策…ではなくて(たぶん)、そのまんま絵になる美しいシーンの数々は、まずは実際に映画でご覧いただきたい、というわけです。
そういえば、この連載のvol.2でもスイカを手にするリー・カンションを描いたなあと思い、私の映画カテゴリーには新たにスイカフォルダができて、「愛情萬歳」と「暗殺のオペラ」が格納された。暗殺のオペラにはもう一箇所、別の場面にもちらっとスイカが出てくる。スイカがいい仕事をしている映画を集めてみるのも、結構おもしろいかもしれない。
そういえば、この連載のvol.2でもスイカを手にするリー・カンションを描いたなあと思い、私の映画カテゴリーには新たにスイカフォルダができて、「愛情萬歳」と「暗殺のオペラ」が格納された。暗殺のオペラにはもう一箇所、別の場面にもちらっとスイカが出てくる。スイカがいい仕事をしている映画を集めてみるのも、結構おもしろいかもしれない。